日本の原風景「白川郷」
岐阜県大野郡白川村の荻町地区は、大小100棟余りの合掌造りが数多く残り、また今でもそこで人々の生活が営まれている集落として知られています。
日本の原風景ともいうべき美しい景観をなすこの合掌造り集落が評価され、1976年に重要伝統的建造物群保存地区として選定され、さらに1995年には五箇山(富山県)と共に白川郷・五箇山の合掌造り集落として、ユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録されました。建物や景観だけではなく、地域に根付く住民同士の相互扶助の営みが高い評価を受けたと言われています。
近年では、世界遺産に登録されたことで知名度が増し、また交通網の整備により国内外から毎年多くの観光客が訪れています。
日本の原風景である農村文化・生活・暮らしを深く感じることができる「日本の故郷」のような場所です。
合掌造り
「合掌造り」とは、木の梁を山形に組み合わせて建てられた日本独自の建築様式です。外から見たその形が、まるで掌を合わせたように見えることから「合掌」造りと呼ぶようになった等、諸説あるようです。合掌造りは他の地方にも多々見られますが、白川郷では「切妻合掌造り」といわれ、屋根の両端が本を開いて立てたように三角形になっているのが特徴です。積雪が多く雪質が重いという白川郷の自然条件に適合した構造になっています。また白川郷の合掌造りは南北に面して建てられています。これは風の抵抗を最小限にするとともに、屋根に当たる日照量を調節して夏涼しく、冬は暖かくするためだと言われています。
合掌造りが一般的な民家と大きく違うところは、屋根裏を作業場として活用しているところにあります。幕末から昭和初期にかけ白川村民の生活を支えたのは養蚕産業でした。そのために屋根裏の大空間を有効活用すべく屋根裏を2~4層に分け、蚕の飼育場として使用していました。茅葺き屋根の耐久年数は昔は50年から80年くらいはもったと言われていますが、現在は環境の変化もありおよそ30年周期で、屋根の葺き替えをしております。合掌造りの最大の弱点は火に弱いことです。ですので、集落内での花火等の火の取り扱いは非常に厳しくなっています。毎年11月上旬頃、万が一の火災に備えて一斉放水の訓練が行われていますが、その放水の様子も大変に美しく一見の価値があります。
結の心
白川郷では「結(ゆい)」の心を大切にしています。
「結」とは相互扶助のことです。私たちが住む白川郷の生活は、昔から個々の家の助け合いと協力があってこそ成り立つものでした。冬は雪に閉ざされてしまうので、家同士が助け合わないと生きていけないくらい、厳しい自然条件でもありました。そのため、1年を通して様々な暮らし・行事の場面で助け合いが必要とされ、白川郷ならではの相互扶助の関係が築かれていきました。
その「結」の心は現代にも、しっかりと引き継がれており、例えば合掌造りの茅葺屋根の吹き替えを、村をあげてみんなで協力しておこなっています。そしてこの共同作業の場は、次の世代へ先人の生活の知恵を伝える貴重な場、きっかけにもなっています。「結」があったからこそ、合掌造り集落も存在することができたといっても過言ではないかもしれません。
そんな「結」の心から、現代が忘れてしまっている「人々が力を合わせて助け合うことの大切さ」と「人と人のつながりや絆の大切さ」を再認識することができるのではないでしょうか。